靴箱には愛しい人の姿。



こんな遅くまでオレを待ってくれる。



びっきりの笑顔で「お疲れ様です」なんて言ってくれる。



この人をオレは絶対悲しませたくない。



いつもオレのとなりで笑っていて欲しいと思う。



それはオレのワガママだろうか?



少し肌寒くなってきた帰り道。



オレは香恋の歩幅に合わせて歩く。



静かに二人で手を繋いで歩くのもいいんだが、もっと香恋のことを知りたい。



「香恋はなんでピアニストになりたいと思った?」



「わたしのお母さんの夢なんです。
お母さんは、小さい頃からピアニストになりたかったらしいんですけど夢を捨ててお父さんと結婚したんです。」



「結婚してからもピアニストってなれるんじゃないのか?」



「お父さんは、結婚したら家庭に専念して欲しいって感じの人なんです。」



ちょっと寂しそうな香恋。



「じゃあそのお母さんの夢香恋が絶対叶えないとな!」



「はい♪」