「先生おはようございます」
「おはようございます」
「先生、きょうもかっこいいですね」
「あ、ありがとうございます」
絵本を片手に病院の廊下を歩いていた。
この病院に来てから4年。
俺は時間があれば小児科病棟へ行き、子どもたちに読み聞かせをしている。
今日は少し時間があったので絵本の読み聞かせをしようと小児科病棟まで来ていた。
すると
「こうして白雪姫と王子様は幸せに暮らしました」
と誰かが読み聞かせをしている声がした。
見るとそこには高校生ぐらいの女の子がいた。
彼女の読んでいた本は昔、結姫が読んでいた本当と同じものだった。
「お姉ちゃん、白雪姫に似てる」
1人の子がそう言って笑った。
「白雪姫に?嬉しい」
とその女の子が笑った。
その姿はまるで10年前の結姫のようだった。
「結姫...」
「えっ?」
俺は思わず声を出してしまっていた。
女の子は不思議そうに俺を見ている。
「あ、なんでもないよ」
俺がそう言ってごまかすと彼女は微笑んだ。
本当に結姫に似ている。
「先生も絵本を読んでいるんですか?」
と女の子は再び不思議そうにこちらを見た。
「そうだよ」
そう言って俺が笑うと女の子は
「私は水樹雪歩です」
と少し照れ臭そうに言った。
「雪歩ちゃんか、これからも本読みたくさんしてあげて」
と俺は彼女に絵本を渡した。
その絵本は結姫が昔使っていたものだった。
「こんなに素敵な絵本初めて見た...」
と彼女は絵本を開いた。
「この白雪姫とても綺麗...」
と笑った。
「ああ、綺麗だ」
と俺が言うと彼女は
「先生はこの王子様に似てますね」
と言った。
王子様...
久しぶりに言われたなぁ
昔はこのあだ名が嫌いだった。
しかし、今ならわかる。
このあだ名があったから結姫に出会えたのだと。
「じゃあ先生は今日から王子様ということで」
と彼女は楽しそうに言った。
「ありがとう、じゃあ」
そう言うと俺は仕事に戻ろうと彼女に背中を向けた時だった。
「柊馬」
と後ろから声がした。
「え...」
振り返るとそこには笑ってこちらを見ている結姫の姿があった。
「結姫...?」
俺がたずねると結姫は優しく笑った。
目を閉じるのが怖くなった。
目を閉じてしまったら結姫はいなくなってしまう。
そう思ったから。
けれど目を閉じてしまった。
するとそこには不思議そうに俺を見つめる雪歩ちゃんがいた。
「どうしました?」
と彼女は優しくたずねた。
「なんでもないよ」
そう言って俺は笑って返すと
「先生、お仕事頑張ってください」
と彼女は言うとお辞儀をして自分の部屋へ戻っていった。
「ありがとう」
そう言って俺は仕事へ戻った。