「こんなところでなにしてたの?」
「俺は、お昼忘れたから購買に行こうかなって思ってたとこ。
ミウちゃんは?」
「ミウは、グラウンドに用があってね」
弾んでいる会話。
足を踏み出したら、こちらに気づかれてしまいそうで、会話が終わるのを待つように身を潜めていると。
「ミウ、お菓子作り得意なんだ……!
だから、今度……あっ、弘中くん、なにか落ちたよ?」
胸の前で手を合わせ、ピンク色に染めた声で話していた女子が、途中でふとなにかに気づいたような声をあげた。
その瞬間、私も見ていた。
明希ちゃんが何気なく足を動かしたとき、ズボンのポケットからはみ出して落ちそうになっている学生証の間から、なにかが落ちたのを。