いつものようにノックはせずに美術準備室のドアを開け、こちらに背を向けて机に座る明希ちゃんに声をかける。


「明希ちゃん」


朝のSHRが始まる前に来たからか、勉強ではなく本のようなものを読んでいた明希ちゃんが、本を閉じながら私の呼び声に振り返った。


アッシュブラウンの髪が、ふわっと揺れる。

私の姿を視界に捉えた途端、その顔に甘い微笑が広がった。


「ヒロ。おはよ」


そして、私の方に体を向けながら、上目遣いで尋ねてくる。


「大くん、なにか反応はあった?」


彼氏(偽)ができたことに対する大の反応を指しているのだろう。

私は首を横に振りつつ答えた。


「まだ言ってない」


「話すときは、俺につきまとわれて仕方なく付き合ったけど、やっぱり嫌だから助けてって言うこと。
わかった?」


先生みたいな口調で忠告してくる明希ちゃん。

こくりと頷くと、明希ちゃんは目元を緩めて微笑んだ。


「進展あるといーね」


その完璧な笑顔には、一点の汚れも見えなくて。