「国破れて山河在り。城春にして草木深し」
古典担当のおじさん先生の声は、睡眠導入剤の効果を持ち合わせているらしい。
午前中最後の授業ということもあり、クラスの大半の頭が必死に重力に逆らおうとしながらも、こくりこくりと揺れている。
「はい、じゃあここ。松田、訳しなさい」
指名された松田、くん、は眠気に負けずにちゃんと授業を受けていたらしい。
「はい」ととおる声が教室に響いた。
「戦乱によって国は破壊されたが、山や川はもとの姿のままであり……」
流暢な彼の現代語訳を耳に入れながらも、私は頬杖をついて窓の外の景色に目をやった。