「じゃあ、歌います」
そう宣言すると、大きく息を吸い、そして私は喉を開いた。
──自分の口から紡がれた歌声が、ギターの音に乗った。
かつてないほどに緊張していた。
息継ぎがうまくできない。
だけど、声はなにかから解放されたかのように、しっかり音符になっていた。
頭の中は真っ白で、記憶が飛んで。
だけどどこかから聞こえてきた拍手の音に、はっと我に返った。
「鳥肌立った。すごいよ、未紘」
見れば、明希ちゃんが感激したように目を輝かせていて。
「……っ、ちゃんと歌えてましたか?」
「歌えてた。すごく綺麗な歌声だった」
歌いきった私を労わるような明希ちゃんの穏やかな声が、じんわりと胸にしみていく。
……やっと。やっと明希ちゃんの前で歌えた。
こんなにも満たされるなんて。
「曲も好きだな、俺」
「私も、私も好きなんです」
まだ回りきらない呂律で、明希ちゃんの言葉に賛同する。
だって、一緒にCDショップに行った時にイヤホンを半分こして聴いた、思い出の曲だったから。
明希ちゃん、歌えたよ。
あの日の約束、果たせたよ。
私はこの日、ずっと踏み出せずにいた一歩をようやく踏み出した。