まっすぐな視線から逃れるように、私はうつむき、ぽつりと声を発した。


「もう……歌えないの」


「え?」


脳裏に浮かぶのは、隣でギターをかき鳴らす大の笑顔。


体の横で握っていたこぶしに、いつの間にかぎゅうっと力がこもっていた。


「歌う意味を見失ったから」


耳に入ってくる声は、自分のものとは思えないほど、熱も色も持っていない。


数秒の沈黙のあと、明希ちゃんが「そっか」とつぶやき、 伏せた眼差しを視聴中のCDのパッケージに向けた。


「聴きたい気持ちはそりゃめっちゃあるっていうか、とんでもなく聴きたすぎるけど、君にとって音楽が楽しいものであってほしいと思う。俺は」


そこまで言った明希ちゃんが、こちらに視線を向けた。


「だから、いつか歌えるようになったその時は、一番に聴かせて」