「じゃあそこに行こうかな」


イルカを見上げたままぽつりと呟かれたそれに、何気なく反応してしまった。


「だれかと出かける約束してるんですか?」


「うん、まあね。お世話になってる子に、お礼はなにがいいって聞いたら、どこかに出かけたいって言われてて」


「小林先輩、ですか? 元彼女さんの」


明希ちゃんは多分意図的にぼかしたのだろうけど、分かってしまった。


私の言葉に、こちらを見下ろした明希ちゃんが少しだけ困ったように眉を下げて苦笑する。


「あ、知ってたか。
おぼろげに付き合ってた記憶はあるんだけど、付き合い始めのきっかけとか別れた時のこととか記憶なくて、それも申し訳ないなって感じだからさ」


「それなら、水族館じゃない方がいいです」


気づけば、そんな言葉が口をついてこぼれていた。


「え?」