待ち合わせは、いつもの駅前。

日曜ということもあって混みそうだから、改札口から少し離れたところ──水族館の大きな看板を目印に指定した。


約束の15分前、そこにはまだ明希ちゃんの姿はなかった。


目論見どおり、駅前とは打って変わって人が通りかからないその場所で、私は駅の壁に設置された水族館の看板を背に明希ちゃんを待つ。


5分ほど経った頃、カジュアル服装に身を包みキャップを被った彼が姿を現した。


「弘中さん!」


呼びかける声に、あたりを見回していた明希ちゃんが、私を見つけた。


「おはよう、未紘。
ごめん、遅くなっちゃって」


「大丈夫です」


「大きな看板がなかなか見つからなかった」


そう言いながら私の背後の看板を見上げる。


「それにしてもでかいな、この看板。
これ、水族館?」


「はい」


ほらこの前行った、と、そう言おうとした時。


「へー、水族館なんてこの辺にあったんだ。
水族館って行ったことないな」


──あ……。


「楽しそう」


目を細め、そこに描かれたイルカを見つめる明希ちゃん。


一瞬、あの日の記憶が走馬灯のようにリフレインして、

「すごく楽しいですよ」

だけど1ミリの違和感も悟られないように笑顔を取り繕った。