戦闘不能になった私にひらりと手を振り、明希ちゃんが歩いて行ってしまう。
あ……。行っちゃう……。
背中を見つめていると急激に名残惜しさが込み上げてきて、気づけばそんな思いに背を押されるように足が動いていた。
「──弘中さんっ」
明希ちゃんに駆け寄り、引き留めるようにシャツの裾を掴む。
「ん?」
明希ちゃんがこちらを振り返り、見下ろした視線と私の視線がぶつかり合う。
次の瞬間、考えるより先に声が出た。
「今週の日曜日、空いてませんか?
弘中さんと一緒に出かけたいんです」
「お、いーね。出かけよ」
あまりにあっさり快諾されて、自分から誘っておきながら半分勢いだった私は、思わずぽかんとしてしまう。
「本当ですか……?」
「ん、ほんと。楽しみにしてる」
ぽんと私の頭に手を置き、今度こそ歩いて行ってしまう明希ちゃん。
鼓動の激しい高鳴りを聴きながら、私はその後ろ姿を見つめた。
好きだよ、そう思ってほしいと身の程知らずにも願ってしまった。
他人にはなにも求めなかった。
それなのに私はいつからこんなにも欲張りになってしまったのだろう。