「未紘……」


目を見張り私を見つめていた明希ちゃんはやがて、そっと睫毛を伏せ、自嘲気味な笑みを浮かべた。


「ごめん。俺、卑屈になってたかも。
みんな、記憶が抜けてる間の俺を見ているんじゃないかって。
今の俺は、実はすごく邪魔なんじゃないかーって」


「……っ」


……考えたこともなかった。


いきなり数年間の記憶がなくて、でもそれは自分だけで。

当たり前だけど、まわりはその分の時間を生きているからこそ、知らないところで自分を含めた関係性が作られていて。


過去の自分を知らないって、どれだけ不安になるだろう。


自分が自分じゃないような、過去の自分からさえ置き去りにされているような。

明希ちゃんは、そんな不安と、多分何度もぶつかってきたんだ。


力になりたい。

人一倍温かいあなたには、穏やかに、楽しいって思える日々を送ってもらいたい。


「弘中さんと同じ歩調で歩いていたいです。
あなたが不安になった時、私が目印になれるように」


こぶしを握りしめ思いをぶつければ、明希ちゃんの目元の力がふっと抜けた。


「ありがと。
だから、もう泣かないで、未紘」


そっと撫でるような声で言われて、また涙がこぼれていたことに気づく。