「──いた」


私が声を発したのは、屋上のドアを開け、フェンスを背に片膝を立てて座り込む大の姿を見つけた時だった。


真ん中で分けられた前髪、すっと通った細い目と鼻筋。

そしてすらりと伸びた長い手足に黒い学ランを身に纏っているその姿は、今日も相変わらず不健康そうだ。


ドアを開け放った音に気づき、昼食のパンを食べていた大が顔を上げる。


だけどその眼差しは、つまらない物でも見つけた時みたいに、すぐに伏せられた。


めげずに、グローブを用意されていないことを理解しながらも、言葉のボールを投げかける。


「おはよう。私ね、大にお弁当作ってきたの」


背中に隠していたお弁当を体の前に出す。


腰あたりまで伸ばした軽くカールのかかった髪を、屋上に吹きかける風が容赦無く揺らしていく。


「今日は、大の好きなものを作……」


私の声を遮るように、大が拒絶の言葉を放った。


「いらない」


あまりに固い鎧に包まれた、緩む余地のない声に一瞬言葉を詰まらせ、食い下がる。


「でも、大に──」


「弁当はもういらない」


「大……」