帰宅すると、早速自室にこもり脇目も振らず歌の練習を開始した。
部屋の中央に立ってギターを鳴らし、音に合わせて声を出す。
「……ぁ、あ……ぁあ」
明希ちゃんが倒れたあの日から、本格的に毎日練習をしているけど、やはり声が出ない。
失敗した時の記憶がリフレインして、無意識のうちに恐怖心が喉の開きをセーブしてしまう。
「……あ、ぅ、く……っ」
悔しくて、不甲斐なくて、下唇を噛み締め自分の膝を何度も叩く。
どうして、どうして、どうして……っ。
ぎゅっと目をつむり、でもすぐに顔を上げた。
──あの声を思い出したから。
『綺麗なんだろうな、ヒロの歌声』
「明希ちゃん……」
明希ちゃんの言葉があるから、私はなんだってできる。強くなれる。
私は唇を引き結び、それから再び口を開いた。
聞いた人が揃って眉をしかめそうなほど掠れた不協和音を響かせながら、歌う。
どんなにかっこ悪くても、自分ですら耳を塞ぎなくなる現実から逃げずに、私は声を上げ続けた。
『また歌えるようになったら、一番に聴かせて』
明希ちゃんと、そう約束したから。