「高垣……っ」


動転し、私を止めるように声を上げる虎太郎さん。


だけど私はその声に足を止めることなく、明希ちゃんの前に立った。


余所行きの笑みを軽く唇に乗せ、明希ちゃんが口を開く。


「えっと、君はコタの知り合い?」


その瞳に、今まで私に向けられていた色はない。

──それでも。

私は頬を緩め、笑顔を浮かべた。


「こんにちは。私は1年の高垣未紘です。
記憶がなかった間、仲良くしてもらっていました」


「そうだったんだ。
ごめん。俺、全然覚えてなくて。
未紘、か。覚えた」


「……っ」


私たちのやりとりに、虎太郎さんが絶句する気配。


「明日も会いにきていいですか?」


「もちろん。
俺が忘れてしまってることとか、教えて?」


明希ちゃんが腰を折って私を覗き込み、控えめに笑んで眉を下げる。


私は溢れそうになる愛おしさをこらえ、目を見つめて頷いた。


「はい。弘中さん」


「ありがと、──未紘」



『あ、ヒロが笑った。
めちゃくちゃ可愛いな』

『恥ずかしいからやめて、明希ちゃん』



あの頃と形は変わってしまったけど、もう一度、最初から。

今度は私に頑張らせて。