勝気な笑みを残して、小林先輩が立ち去っていく。
その姿が遠ざかっていくと、私は糸が切れたようにノートが焦げたあたりのコンクリートに膝をつき、黒くなったノートの欠片を拾い上げた。
「なにがあったんだよ、ここで。
弘中先輩が未紘のことを覚えてないって、どういうことだよ」
背後から聞こえてくる、戸惑ったような加代子ちゃんの声。
少しの逡巡ののち、加代子ちゃんの問いかけに応えるように、そっと口を開いた。
「……明希ちゃん、事故の後遺症で、1日分の出来事しか記憶できなくなっていたんだって。
それなのに毎日ノートに記録して毎日読み返して、記憶がない素振りなんて一瞬も見せずに、会ってくれてた」
でも、私たちを繋げてくれていたそのノートが、今はもう……。
睫毛を伏せれば、加代子ちゃんの声が落ちてきた。
「そう、だったのか……。
毎日一緒にいたいから消えていく記憶を繋ぐなんて、そんなのもうプロポーズじゃんな」
「……っ」
改めてそう言われると、明希ちゃんの思いにぎゅっと胸が切なく締めつけられる。