そしてだれもいない、ひっそりとしたいつもどおりの旧校舎。


美術準備室まであと少し、というところで、私はどこかからかすかに聞こえてきた人の声に足を止めた。


「いろいろ手伝ってもらっちゃって本当に助かるよ」


「ふふ、大丈夫。
私たち、長い付き合いなんだし」


思わずドアの手前で息を潜め、聞き耳を立ててしまう。


ひとりは、間違いなく明希ちゃんの声。

そして続けて聞こえてきた知らない女の人の声。


ふたりの声は、少し先の美術準備室から聴こえてくる。


明希ちゃんと私、ふたりだけの空間だったこの場所に、だれか知らない人がいる──。

美術準備室から聞こえてくるふたりの弾んだ声に、胸に黒い靄がかかる。


「元カノなのにごめんね、俺あんま覚えてなくて」


「気にしないでよ。
記憶障害って聞いた時は、ちょっと驚いたけど」


元カノ……?


聞き慣れないその響きに、心が凍りついた。