「行ってきます」
家族がいるリビングに向かってそう声をあげるが早いか、私は玄関を駆け出した。
はやる気持ちに、学校に向かう足も自然と速まる。
……明希ちゃん、明希ちゃん。
耳と頬が痛くなるほどの外気の寒さも、今はまったく気にならない。
教室に着くと、マフラーを外してスクールバッグを机に置き、虎太郎さんが貸してくれた明希ちゃんの備忘録を胸に抱いて脇目も振らず美術準備室に駆けた。
ここだって確証はないけれど、多分明希ちゃんは美術準備室にいるんじゃないかと、謎の予感があった。
旧校舎に向かうにつれて、あれだけ騒がしかった人の声が減っていく。