「えー、手厳しい」


咄嗟に笑顔を取り繕って、軽い感じで返す。


……もう、だめだ。

会えなくなることを伝えないと。


「──明希ちゃん」「ヒロ」


俺が呼ぶのと同時に、顔を上げたヒロが俺を呼んだ。


「いーよ、ヒロから」


軽いトーンで先の言葉を促せば、ヒロは一瞬目を伏せ、だけどすぐに顔を上げる。

漆黒のふたつの瞳が、射るように俺をまっすぐに見つめた。


「やっぱり、明希ちゃんの昔のこととナツくんのこと、教えてほしい」


「え?」


「私、ずっと他人に興味がなかった。
でも今はあなたのことを知りたい。
明希ちゃんのことが大切だから」


ヒロのとおる凛とした声が、俺の心を容赦なく揺さぶる。


……どうして。

どうして君は俺の決心を鈍らせるようなことを言うんだよ。


「いつでも待ってる。
明希ちゃんが話せるようになったら──」


……もう、我慢の限界だった。


ヒロ、自分の唇がそう動くのを感じながら、俺は衝動的に彼女を強く抱きしめていた。