だれもいない、旧校舎。

12月の空っぽな建物が纏う空気は、体を芯から冷やしていく。


さっきまで楽しかったのに、俺がぎこちない態度をとったからか、なんとなく会話がうまく続かない。


いつも使用しているらしい美術準備室までやってくると、俺はヒロを振り返った。


「ここからひとりで帰れる?」


「うん、平気」


頷き、帰る素振りを見せた彼女を、思わず俺は呼び止めていた。


「ヒロ」


「ん?」


振り返る彼女の、こぼれそうなほど大きな瞳に俺が映る。

そんな当たり前でさりげないことすら、今はもう泣きそうになってしまう。


「じゃ、お別れの前にヒロからハグがほしいな」


寂しさを悟られないよう、得意の笑顔を浮かべて甘えてみる。


多分、ヒロに触れられるのはこれが最後。

最後にヒロの温もりに触れたい。


だけどヒロは顔を赤くして目を伏せた。


「もうしたから、今日はだめ」


え……?


再び、頭を殴られたような衝撃とショックに襲われる。


今日、ヒロとハグしたんだっけ、俺……。

……全然……覚えてない……。