だけど、それが悲しいとかつらいとかいう感情はない。
元々、淡白でなにかに執着するタイプではなかった。
だから熱中するものもなかったし、本気の恋をした彼女もいない。
付き合った子はいたけど、どれも相手から迫られ面倒になって、という形ばかり。
今となっては、何人と付き合ったのかも分からなくなってしまったけど。
2年の記憶がないと言われても、なんの未練も悔しさもない。
──ただ、ひとり。
心に引っかかる子がいる。
それは、俺のことを〝ファン一号くん〟と呼んでくれた、あの子。
不完全な記憶の中、彼女の記憶はおぼろげだ。
あの子のことも、多分ほとんどのことを忘れてしまっているのだろう。
どんなふうに出会ったとか、どんな関係だったかとか、最早名前すらまったく覚えてない。
だけど、記憶の中の彼女と俺はすっかり親しげで、頻繁に会っていた感覚はある。