なにも分からず、ベッドから出て、導かれるまま勉強机に向かう。
そこには1冊のノートが置かれ、その横に大きめなポストイットが貼られていた。
『事故に遭う前の記憶は欠落してる部分もあるから、自分が持つ記憶がすべてだとは思わないこと。
記憶にないことを言われたら、双子のナツのことだと説明すること。
高校に着いたら、美術準備室に行くこと。そこで先生が個人指導をしてくれることになってる』
ポストイットを埋める、まごうことなく自分のものである字を読み上げた俺は、記憶が2年分すっぽりないことを受け入れつつあった。
「はは、まじかよ……」
思わず乾いた笑いが漏れ、宙を仰ぐ。
……なんか俺、生きてる意味がないじゃん、これ。
どうせ明日には今日のことも忘れるというのなら、今日を生きる意味はどこにあるんだろ。
明日からもこんな日々が続くのか。
なにが楽しくて生きていなきゃいけないんだよ。