「家族や俺のことは覚えているように、明希には事故前の記憶が断片的に残ってた。
あんたなんだろう、俺たちが中学生の頃、河原でギターを持って歌っていたのは。
聞いた感じによると、高垣に関する記憶は1日分くらいだけらしいが、その記憶が事故の後も消えなかった」
痺れた頭で、なんとか思考を繋ぐ。
それじゃ、やっぱり。
「ナツくんは、明希ちゃん……?」
「ナツ、か。
記憶のない時のことを話された時、相手を傷つけないように明希が作った双子の兄貴のことだな。
ああ、あいつに兄貴はいない」
ああ、と、心のどこかが言いようのない感情に崩れ落ちた。
明希ちゃんは昔のことを話したがらなかったんじゃない。
記憶がないから、話せなかったんだ……。