土曜日の高校は、部活のために解放されているものの、部活をやっている生徒の姿は見当たらず、しんと静まり返っていた。
6時頃、警備員によって施錠されるはずだ。
美術準備室に着くと、明希ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「ひとりで帰れる?」
「うん、平気」
すると、明希ちゃんが軽く腰を曲げ視線の高さを合わせ、綺麗な笑みを浮かべた。
「じゃ、お別れの前にヒロからハグがほしいな」
女子が卒倒しそうな甘いスマイルでねだられたって、そんなことをしたら私の心臓が持つか不安だ。
「もうしたから、今日はだめ」
1日1回が限界。
1回だって、あんなに緊張するというのに。