お母さんが出ていき、私はよろよろとした動きで枕元に置いていたスマホを手に取った。

明希ちゃんに、今日休むことを伝えるためだ。


『ごめんね。風邪ひいたから学校休みます』


そうメッセージを送ったところで、スマホが揺れた。

着信──相手は、加代子ちゃんだ。


「もしもし。高垣です」


『未紘、誕生日おめでとう』


第一声でお祝いの言葉を向けられて胸が温かくなり、私は人知れず頬を綻ばせた。


「ありがとう、加代子ちゃん。
誕生日覚えてくれてたんだ」


『当たり前じゃん。
つーか体調大丈夫なのか?
クラスの男子が大騒ぎしてるぞ』


電話の向こうから聞こえてくる声が、心なしか不安げに揺れる。


「うん、ちょっと熱が出ちゃって」


『それにしても残念だったな、誕生日に熱なんて。
夜とかごちそうだったんじゃねーの?』


「大丈夫。
誕生日プレゼントに、ケーキ二ホール買ってもらうから」


見えない加代子ちゃんに向かって、びしっと親指を立てれば、からからと笑い声が返ってきた。


『はは、未紘の胃袋なめてたわ。
まあ、ゆっくり休めよ。また来週な』


「うん」


電話を切ると、逃げようのない静けさが迫ってくる。


私は熱を持つ額に腕を乗せ、目を閉じた。