「じゃあ、そろそろ帰るね」
夕食の支度なんかもあるだろうし、そろそろ帰らないと、邪魔になってしまう。
近くに置いていたスクールバッグを手にした時。
横に座る明希ちゃんが、不意にこてんと私の肩に頭をもたれかかってきた。
「え……」
「あと少し間だけ、こうさせて」
「明希、ちゃん?」
「離れがたいってやつ」
睫毛が伏せられ、唇は笑みを描いてる。
でも耳元から聞こえてくるその声音は、どこか切実に聞こえて私は動けなくなった。
どうしてだか私は、この人を振り払うことができない。
体が立つ意思を失うと、明希ちゃんとの距離に鼓動がわずかに騒がしくなる。
この気持ちに名前をつけるとしたら、なにになるんだろう。