至近距離でこちらを見つめるビードロみたいな瞳に吸い込まれて、目が離せなくなる。

と、その時。


「明希、虎太郎だ。帰るぞ」


聞き覚えのある低い声が、ドアの向こうから聞こえてきた。

虎太郎さんが、一緒に帰る明希ちゃんを迎えにきたらしかった。


それを合図に張り詰めた空気が破れる。


「ああ、うん、今行く」


私を壁との間に囲んでいた手を離しつつ、明希ちゃんがドアの向こうの虎太郎さんに向かって答える。


そして私を振り返った。


「じゃあ、ヒロ。また」


いつもと同じ優しい手つきで私の頭に手を置くと、机の横にかけていたスクールバッグを手に教室を後にする明希ちゃん。


やがて足音も聞こえなくなり、しんとした痛いほどの沈黙が辺りを包み込む。


途端に足の力が抜けていき、壁にもたれかかったまま、ずるずるとその場に座り込んだ。