「え! 明希先輩、彼女いたの?」


「ああ、いるいる。一年の美少女らしいよ」


「うそ~、めちゃショックなんだけど……。
みんなの明希先輩が……」


「しかも彼女、かなりの変人なんだって」


「え~、なにそれ。明希先輩って女の趣味悪いんだ……。
なんか意外」


それは、登校中に聞こえてきた、前方を歩く女子ふたりの会話。


明希ちゃんの話題を耳にすることは少なくないから初めは聞き流していたけれど、聞けば聞くほど耳が離せなくなり、気づけばぴったりとふたりの後ろについて聞き耳をそばだてていた。


……これはまずい状況ではないだろうか。

私のせいで明希ちゃんの評判にまで悪影響が及んでいる。


「顔はともかく、私の方が絶対幸せにしてあげられますよ、明希先輩ーっ!」


「はは、みんな思ってるって、それ」


私が後ろにいるなんてつゆとも思ってもいない様子の遠慮ない会話を聞きながら、明希ちゃんを巡る状況が悪くなっていたことに今更気づき、自分を責めるように鼓動が慌てる。


今すぐにでも、明希ちゃんの善意で偽の恋人になってくれていただけだと弁明したいけど、口下手な私ではうまく説明できずにさらに反感を買ってしまう可能性もある。


あまりの焦れったさに、私は肩にかけたスクールバックの持ち手を握りしめた。