はっとして体を起こしながら振り返れば、その声の主はよりにもよって厳しいと有名な教頭だった。
最悪なタイミングで、最悪な人に見つけられてしまった。
「げ。見つかった」
体を起こしながら、明希ちゃんが面倒そうにつぶやく。
「まったくお前たちは! どこのクラスだ!」
教頭が威圧するようにずかずか大股で迫ってくる。
すると突然、明希ちゃんが涼しい顔で遠くの空を指さした。
「あ。せんせー、あんなところに空飛ぶまんじゅうが」
「なにっ?」
そして教頭の視線が逸れたタイミングで。
「行こ、ヒロ」
軽やかな声とともに不意に腕を引かれて、教頭の横をすり抜け屋上を駆け出す。
「あっ、こらー! 待てー!」
「待てって言われて待つヤツなんていないですよ、せんせー。ね、ヒロ」
なんてスリリングな逃避行。
私は我慢しきれず、階段を駆け下りながら吹き出した。
「ふふっ……」
こんなの初めてだ。
授業をサボった上に、先生から逃げるなんて。
素行優良児が聞いて呆れる。
でも、明希ちゃんがしっかり手を握ってくれているからか、手を引かれてこのままどこにでも行けそうな気がした。