「明希ちゃん」


「ん?」


そっと空に向かって放った声は、なににも邪魔されることなく明希ちゃんに届いた。


「私、死のうとするたびに、綺麗なものを見つけてしまうの。
川に飛び込んだ時は水面の向こうに見える太陽が眩しくて、手首を切った時はお母さんの作る夕食の匂いに胸を締めつけられて。
そして今回も、あなたを見つけてしまった」


神様の嫌がらせなのか、そのたびに私はこんなにも綺麗な世界で生きていたのかと思い知らされる。


「もしかしたら私、生きたかったのかな……」


生きていていいと、だれかにそう言ってほしかったのかもしれない。


重力に身を任せ、そんな言葉をこぼす。すると。


「じゃあ俺は、君に〝生きていてくれてありがとう〟を送る」


風に乗って耳に届いた柔らかい声にはっとして隣を見れば、明希ちゃんがこちらに視線を向けて優しく微笑んでいた。


「え……?」


「ナツと俺に出会ってくれて、ありがとう。
君は知らないだろうけど、君が俺に生きる理由をくれてる」


あまりに大層な言葉は、こちらに向けられているはずなのに自分に釣り合って聞こえない。


――どういう意味? そう聞こうとした、その時。


「こらっ! どうして立入禁止の屋上に生徒がいるんだ!」


穏やかな空気を切り裂くように、入り口の方から怒声が聞こえてきた。