ガチャリと音を立てて、ドアが開く。


躊躇うことなく足を踏み入れれば、途端に冷たい空気が私を歓迎した。

もうすぐ十月。風も衣替えを始めているのだろう。


風に長い髪をもてあそばれ、視界を遮られながらも、私は導かれるように屋上の縁に向かって足を進める。


転落防止の柵がないのは幸か不幸か。……都合がいいかもしれない。

つまらないこと考える暇なく、いつでも飛びだせるのだから。


私は数メートル先に広がる、なにもない空間を見下ろした。

その下はまっさらなアスファルト。


今は目の当たりにしても高いとも思わない。

でも多分、三階建ての屋上から飛び降りれば一息だ。


ーー待ってて、大。


大は歓迎してくれるだろうか。

もしかしたら突っぱねられるかもしれない。

だけどね、大。もう疲れてしまった。

すべてを捨ててしまいたくなったよ。

──君がいない明日に、意味なんてない。