『未紘……。しっかりして』


焼香の中、通路のど真ん中で動かないふたりは異様だったのだろう。

ちらちらとこちらに向けられる視線を気にして、静かに諭してくるお母さん。


でも私はすべてを遮断するように、首を横に振った。


止め。止め。お経、うるさい。今、お経なんて要らない。


するとそんな私の様子を見かねて、それまでなだめる調子だったお母さんの声が、厳しく私を叱責した。


『未紘。悲しいのはわかるけど、いつまでもそんなんじゃ亡くなった大くんが悲しむでしょ』


お母さんの言葉に、果てしない奈落に心臓が落下していくような、そんな感覚に陥る。


だって、事故の日の前日だって大と言い合ったのだ。またね、って。

大はいつもどおりだった。それなのに、それなのに――。


気づけば、すべてを振り払うがごとく腹の底からしゃがれた声を張りあげていた。


『大は死んでなんかない! 死ぬわけない!』


水を打ったように静まりかえる室内。

私はその場から、そして現実から逃げるように駆けだした。


こんなにも感情はいっぱいいっぱいだというのに、涙は体内で干からびてしまったのか、なぜか一滴も出なかった。