「行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
リビングから返ってくるのんびりとしたお母さんの声を聞きながら、私は茶色のローファーを履いた。
ドアを開ければ、いつもと同じ青空が私を迎える。
だけど今日は、ひとつだけ違う光景がそこに広がっていた。
家を出ても、門扉の前に大の姿はない。
昨日まではいた。──いや、私が思い描いていた。
様々な感情がこみ上げてきて、あまりに息苦しい。
それらを消化するように少しうつむき、ふうと小さく息を吐き出すと、コンクリートに足を踏み出す。
吹きつける風がひどく冷たく痛い。
ひとりの通学路は、なぜかとても長く感じた。