人垣の向こう、ぽつんと立つ大の姿を見つけ、私は大きく目を見開いた。
『お前はひとりえ歌うんだな』
頭の中の黒板に、あの日の言葉が白いチョークで書かれて浮かび上がった。
途端に、世界から音が消える。
…………あ。
足が竦み、マイクスタンドに縋るように体重をかける。
「ボーカル入って……!」
水中のように、くぐもりぼやけた輪郭を持っただれかの声が聞こえてきた。
まずい。歌わなきゃ──。
無我夢中に大きく息を吸って、勢いよく吐き出した。
「…………ぁ、……っぁ、ぁ…………」
自分の置かれた状況に、目玉が飛び出んばかりに目を見開く。
全身から恐ろしい勢いで血の気が引いていく。
──声が、出ない。
首を絞められているかのように、声が喉元で詰まって出てこない。