目的地に着くとそれぞれが楽器のセッティングを始め、私もマイクスタンドの準備を整える。
「あー、あー」
「お、いいねー」
目をつむり喉を震わせて発声していると、持ち運びができるコンパクトドラムのセッティングをしていた鞘橋さんに声をかけられ、私は小さく目を伏せて軽くお辞儀の意を示した。
「ごめんね、練習の時間作ってあげられなくて。
急遽だったから、こっちもバタバタしてて」
「いえ」
時間がなくて歌の練習はできなかったけれど、ウォークマンの音楽は聴ききることができた。
どの曲もよく聴く上、そのほとんどが昔歌ったことがあり、少し安心した。
長らく歌っていないけど、きっと今なら歌える。
楽器の準備をしていると、行き交う人が物珍しそうに足を止める人たちが増えてきた。
ああ、懐かしい、この感覚。