「でも私、ずっと歌えてなくて……」


不安を口にすると、顔を上げた鞘橋さんが私の背をバシバシ叩いて、そんな心配などかけらもないように豪快に笑う。


「はは、大丈夫だよ! あんなに歌うまいんだから!」


そこまで言ってくれるのなら。

私にもできることがあるなら、と、そう思ってしまった。


「わかりました」


するりと声が出た。

固い面持ちのまま答えれば、鞘橋さんの顔がパアッと輝く。


「ありがとうっ!! めっちゃくちゃ助かるよ……!
じゃあ、練習用のデモだけ渡しておくね!
高垣ちゃんも知ってるような有名な曲ばっかりだから、心配しないで?」


コンパクトなウォークマンを渡され、私は自分の意思を奮い立たせるようにそれを握りしめた。


大丈夫だ。今の私なら、歌えるはず。