思いがけない"お願い"に、私は思わずたじろぐ。
「今日の放課後ライブの予定があるんだけど、ボーカルの子が風邪で喉痛めちゃっててさ。
延期にできればよかったんだけどもう宣伝しちゃってるし、すごく困ってるんだよ……」
「だからってなんで私に?」
「中学の頃、男の子とふたりで組んで歌ってたよね?
動画サイトで、とんでもなく歌が上手い美人がいるった話題になってたんだよ。
だから、高垣ちゃんにならお願いできると思って……!
オリジナル曲は組まずに、カバーだけでセトリ作るし、今日だけ力を貸してください!」
「でも」
「お願い……!」
「何事?」とざわつくまわりのことなんて気にもせずガバッと直角に頭を下げる鞘橋さんを見つめ、私は固まってしまう。
その声音と態度からは、切実さがひしひしと伝わってきて。
「無理です」
話を持ちかけられてすぐはそう言おうとしていた心が軟化していくのを、自分でも気づいていた。
どうしてだろう、簡単に切り捨てられない。
私を必要としてくれる、そのことを嬉しいと感じてしまった。
他人と関わるなんて価値のないものだとそう思っていた、私が。
多分、さっきまで明希ちゃんといたから。
かちかちに固まっていた心が絆されてしまっていたから。