笑って、か。
明希ちゃんの笑顔と声を反芻しながら、教室に戻るため廊下を歩く。
昼休みのためまだ廊下にいる生徒からの視線が向けられる。
雑音の中から、「アンドロイドちゃん」という単語をめざとく耳が拾う。
……明希ちゃんも思うのだろうか。
他の人と同じように、私を、感情のないアンドロイドだと。
まっすぐ前を見つめたまま歩いていた、その時。
「あっ! いたいたーっ!」
走り来る足音に反射的に振り向けば、ひとりの男子がこちらに向かって駆けてきていた。
正方形の大きな眼鏡に、赤いメッシュを髪に入れ、独特の雰囲気を放つ彼は、私の前で足を止めた。
そして走ってきた勢いそのままに詰め寄ってくる。
「君だよね? 高垣未紘ちゃんって」
初対面なのに、どうしてこの人は私のことを知っているのだろう。
怪訝に思いながら、静かなトーンで返す。
「そうですけど、なんの用ですか」
「俺、軽音部の鞘橋(さやはし)。
突然なんだけど、高垣ちゃんに折り入ってお願いがありまして」
「お願い?」
すると鞘橋さんが目をぎゅっとつむり、顔の前で勢いよく手を合わせた。
「そう! 今日だけでいいから、うちの軽音に助っ人としてボーカルで入ってくれない!?」
「え?」