『お前、昔っから体温低いよなー』


私の緊張や動揺を知らず、呑気に呟く大。


見下ろせば、大のすっと通った直線的な鼻梁と、量の多い睫毛に縁取られた漆黒の瞳が主張をしていた。


大を色に例えると、モノクロだ。

白い肌に、黒い睫毛と黒い髪。

正反対の色が喧嘩をすることなく、でもお互いを神秘的なほどに引き立て合っている。


一筋の汗が、滅多に発汗しない私の首元を伝った。

今日はとても暑い日だ。

私の足元まで、すっぽりと頭上の木が影を落としている。

蝉が、一瞬も止まることなく、歌声を奏でている。

じわじわと、背中を暑さが登ってくる。


そんな、絵のような夏の景色の中。


『……なぁ、未紘』


さっきまであれほどうるさかった蝉の声を打ち消し、ぽつりと放たれた大の声が私の耳を占領した。


『ん?』


『俺、多分今が一番幸せ』


突然の言葉に、私はその意味を解釈するのに、少しの時間を要した。