次に“昇降台を踏み外した可能性”。

「片桐さんは身長180センチ。

 彼がこの厨房で仮に上の物を取ろうとしても、台を使わずとも十分に足りる高さなんです。

 そう。

 わたしの身長は警察官になるのに最低限必要な155センチ。

 そのわたしが30センチ強の高さしかない台に乗って足りる高さは、片桐さんが軽く背伸びすればなんなく取り出せる高さなのです。

「だから台を踏み外した際に頭を打つということは有り得ない。

 それはつまり、別の視点から考えれば“そうすることが自然”と思う人物が考えた“偽装行為”ということです」

「で、でもたまたま台を使ったのかもしれないじゃない?」

 確かに、日比谷さんのおっしゃる可能性も否定はできません。

 ですが警部補は何一つ揺らぎのない口調でゆったりと、

「それは、彼が倒れていた向きからして“絶対”にありえません」

 自信たっぷりに言い放ちました。

 そして再び検証に使われる伊地山さん。

「あの……何故僕はこのような役割なのでしょう?」

「万が一何かの弾みで怪我したらいけないじゃないですか。他の方々が」

「へ?」

「あぁいやいや、気にしないで下さい」

「は、はぁ……」

 釈然としない表情をしつつも素直に五十夜警部補のいうことに従う辺り、なんとなく悪い“コ”ではないように思えますね。

「では、いいですか?

 仮に、片桐さんが台の上に登ったとします。

 ここから落ちるとすればどのようなケースが考えられますか?」

 そういって警部補は伊地山“くん”のベルトを掴んでがくがく、と揺らしています。

「あ、あぁ、あぶ、ないで、す、よぉ、お、ぉ!」

 小柄な伊地山くんは全身を赤ちゃんに持て遊ばれる人形のように揺らしながらも必死に訴えてみますが警部補は聞く耳を持っていないのか気付いていないのか……無視。

「で、どうですか? 皆さん」

 二度目の質問にようやく、(あまりの奇怪な光景に)呆然としていた他の方々が答えました。