凶器はドライアイス。

 だから男の頭脇に放置でもしておけば蒸発して跡形もなくなるはずだ。

 これは問題ない。

 まずは、

「くっ……」

 脱力した人間はこうも重たいものなのか。

 それでもどうにかこうにか頭を持ち上げ、


──ぐしゃっ!


 床に叩きつける。

 これで殴打の後は誤魔化せるだろう。

 ふと、転がった塊と視線が合う。

 不思議と何の感慨も浮かばなかった。

 どこか意識が肉体からずれているような感覚で、妙に冷静になっている自分。

 事を成すにはちょうどいい。

 次は、


──カチ カチ カチ

  ブゥゥゥン……


 厨房内の床を低い振動が這う。

 密やかな空間ではやけに音が大きく感じるけれども、ここはほぼ完全な防音になっている。

 外に音が漏れる心配はない。

 これで、事は済んだ。

 思ったより呆気ない感じだが、ぬかりはないはず。

 後は朝を待つだけ。

 ゆっくりと出入口に向かい、おもむろに振り返った。

 この先にはただの肉の塊になった男が転がっているはずだったが、色々なものが視線を遮っていて確認はできない。

 だがその必要は特には感じなかった。




──翌朝。


 電話の音がが少し重くなっている頭に届く。

「はい、もしもし」

『○○さんのお宅でしょうか?

 警察の者ですが……』

 業務然とした応対。

 まさかあちらから直接かけてくるとは思わなかったがこれも想定内ではある。

 これからすべきことを頭の中で反芻(はんすう)する。




 問題は、ない。