「まずは降りるときに踏み外して後ろに倒れる……あ……」

 最初に答えたのは越野さん。

 ですが、答える途中で何かに気付いたご様子。

「そう、それが一番高い確率で起こりうるケースですが、これには致命的な矛盾があります」

 その矛盾とは。

「台を降りる際に仰向けに倒れたのであれば“入口に頭を向けて”いるはずが、ない。

 仮に最終的にその形に倒れたとしても、それならば踏み台を据えた“対面の壁ないし棚”に頭をぶつけた形跡がなければおかしいのです。

 もしそうではなく、横方向に下りようとして足を踏み外したのであれば、身体の下に台が入り込み、足の背面のどこかにその傷跡があるはずです。

 ですが、そのようなものは鑑識の結果上、どこにも出ていません。

 つまり!

 もし、これが、仮に“事故”であったとするならば!

 片桐さんは、おもむろに後ろに倒れこみ、後頭部を強打したということになってしまうのです……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 一同の沈黙は警部補の推理に矛盾がないと認めたということを雄弁に語っています。

「現場への出入りは鍵の性質上、内部の人間以外にはありえません。加えてこの偽装を“思いついてしまう”人物は……あなた方以外にはいないのです」

 問題は、犯人が誰であるか。

 この場合の定石はまず、アリバイの確認から。

 ではひとりひとり伺っていくとしましょう。