私は一人で校内を歩いた。



四階に行くと、一番奥の教室の小さな窓が開いていることに気づいた。
私は教室に近づいて中を覗く。


そこには床に寝そべって眠っている男子生徒がいた。
私は鍵が開いているのだとわかり、中に入った。




外からは野球部の声が聞こえるが、静かな場所だった。
私は寝ている人の横に座り肩をトントンと叩いた。起きる気配が無い。



「…もうすぐお昼ですよー。」



窓の外を見ながら静かに言った。一人で言って恥ずかしくなった。




私は、もう一度だけ起こして帰ろうと隣で寝ている男子を見ると、こちらをじっと見ていたので驚いて少しだけ声を出してしまった。



「ははっ。入学式サボろうと思っていい場所見つけたから寝てたんだけど放課後になってた。」



よいしょと言いながら起き上がる彼は私を見て「起こしてくれてありがとう」ではなく「俺を見つけてくれてありがとう」と言った。




私は少しの笑顔と少しの頷きで返した。





今思うと、この時には名前も知らない彼の事を好きだったのかもしれない。