俺等が良く知っている上品な色の桜は、気が付けば、緑の葉っぱも一緒に揺らしていた。
そんな二つの色が入れ混じった桜並木を二人で歩き、今日こそはと決心して口を開く。
「あの、先輩」
俺の先を歩く彼女はゆっくりと振り返り、優しく微笑みながら首を傾げる。
返答を待つ彼女と俺の間をそよ風が通り過ぎ、残り少ない桜の花弁を散らす。
役目を終えた花弁は、寂しそうに揺られながら静かに地面へ吸い込まれていった。
「良ければ、俺と付き合ってくれませんか」
震える声を絞り出し、ようやく告げた想い。
緊張で高鳴る鼓動は、彼女に聞こえてしまうのではないかと思うぐらい大きい。
ギュッと拳を握り、ゆっくりと目を瞑った。
そして震える睫毛を揺らし、小さく深呼吸をして彼女を見る。
俺の告白を受け、彼女は僅かに驚いた顔をし頬を赤らめた。
しかし、もしかしてと期待の気持ちが膨らんだ途端、申し訳無さそうに地面へ視線を落とす。
──ああ、これはきっと振られるんだな。
そう察した瞬間、彼女は徐に口を開いた。
「……ごめん、気持ちだけ受け取っておくね。私、好きな人がいるんだ」
こうも簡単に終わってしまった、俺の初恋。
どんどん萎んでいく気持ちは、先程散った桜のように切なく寂しくて。
彼女は、申し訳無さそうに笑う。
俺はそんな彼女に気付かれないように息を吐き、いつも通りを振る舞おうと無理矢理笑顔を貼り付けた。
「いえ、気にしないで下さい。玉砕覚悟でしたから」
苦い思いを塞ぎ込み作った笑顔は、きっと誰が見てもぎこちないだろう。
もしかしたら、作り笑いだと先輩にも気付かれているかも知れない。
──先輩に気を遣わせたくない。
その一心で作った笑顔なのに、バレたら水の泡じゃんと自分に苦笑いをした。
「先輩の好きな人って、もしかして遥ですか?」
縋るような気持ちで俺は言った。
遥は俺の幼馴染だ。
基本物静かで、言う時は言う性格。
頭の良さは人並みだが、運動神経抜群でルックスも平均上。
そんな遥を狙う女子は結構いて、先輩もその内の一人だという事を俺は知っていた。
「凄いね、なんで分かったの?」
「先輩って分かり易いですもん。もしかすると、本人にもバレてるかも知れませんよ?」
そう揶揄うと、彼女は怒りつつ、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
照れ臭そうに笑う彼女は小動物のように可愛く、理性を煽る。
いつもは俺を元気付けてくれたその笑みも、振られた身からすれば毒のようなものだ。
伸ばしそうになる腕を必死に抑え、俺は何度も先輩に話題を降った。
彼女と駄弁っている内に、桜並木の終着点は刻一刻と近付いてくる。
俺の家は先輩の家と逆方向だから、先輩の隣を歩けるのはここまでだ。
俺が挨拶をしようと口を開けば、彼女はそれを遮るようにしてこう言った。
「明日も一緒に帰ろうね」
木漏れ日が、彼女と花弁を穏やかに照らす。
そんな光のカーテンに照らされる彼女の姿は、純白のベールを身に纏っているかのようで。
彼女のあまりの美しさに、俺は思わず息を呑んだ。
「……はい、勿論です」
自然と俺は、そう口を開いていた。
安堵した表情を浮かべ、嬉しそうに微笑む彼女。
高校の入学式で一目惚れした先輩の笑みは、今も桜並木のように美しかった。
そんな二つの色が入れ混じった桜並木を二人で歩き、今日こそはと決心して口を開く。
「あの、先輩」
俺の先を歩く彼女はゆっくりと振り返り、優しく微笑みながら首を傾げる。
返答を待つ彼女と俺の間をそよ風が通り過ぎ、残り少ない桜の花弁を散らす。
役目を終えた花弁は、寂しそうに揺られながら静かに地面へ吸い込まれていった。
「良ければ、俺と付き合ってくれませんか」
震える声を絞り出し、ようやく告げた想い。
緊張で高鳴る鼓動は、彼女に聞こえてしまうのではないかと思うぐらい大きい。
ギュッと拳を握り、ゆっくりと目を瞑った。
そして震える睫毛を揺らし、小さく深呼吸をして彼女を見る。
俺の告白を受け、彼女は僅かに驚いた顔をし頬を赤らめた。
しかし、もしかしてと期待の気持ちが膨らんだ途端、申し訳無さそうに地面へ視線を落とす。
──ああ、これはきっと振られるんだな。
そう察した瞬間、彼女は徐に口を開いた。
「……ごめん、気持ちだけ受け取っておくね。私、好きな人がいるんだ」
こうも簡単に終わってしまった、俺の初恋。
どんどん萎んでいく気持ちは、先程散った桜のように切なく寂しくて。
彼女は、申し訳無さそうに笑う。
俺はそんな彼女に気付かれないように息を吐き、いつも通りを振る舞おうと無理矢理笑顔を貼り付けた。
「いえ、気にしないで下さい。玉砕覚悟でしたから」
苦い思いを塞ぎ込み作った笑顔は、きっと誰が見てもぎこちないだろう。
もしかしたら、作り笑いだと先輩にも気付かれているかも知れない。
──先輩に気を遣わせたくない。
その一心で作った笑顔なのに、バレたら水の泡じゃんと自分に苦笑いをした。
「先輩の好きな人って、もしかして遥ですか?」
縋るような気持ちで俺は言った。
遥は俺の幼馴染だ。
基本物静かで、言う時は言う性格。
頭の良さは人並みだが、運動神経抜群でルックスも平均上。
そんな遥を狙う女子は結構いて、先輩もその内の一人だという事を俺は知っていた。
「凄いね、なんで分かったの?」
「先輩って分かり易いですもん。もしかすると、本人にもバレてるかも知れませんよ?」
そう揶揄うと、彼女は怒りつつ、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
照れ臭そうに笑う彼女は小動物のように可愛く、理性を煽る。
いつもは俺を元気付けてくれたその笑みも、振られた身からすれば毒のようなものだ。
伸ばしそうになる腕を必死に抑え、俺は何度も先輩に話題を降った。
彼女と駄弁っている内に、桜並木の終着点は刻一刻と近付いてくる。
俺の家は先輩の家と逆方向だから、先輩の隣を歩けるのはここまでだ。
俺が挨拶をしようと口を開けば、彼女はそれを遮るようにしてこう言った。
「明日も一緒に帰ろうね」
木漏れ日が、彼女と花弁を穏やかに照らす。
そんな光のカーテンに照らされる彼女の姿は、純白のベールを身に纏っているかのようで。
彼女のあまりの美しさに、俺は思わず息を呑んだ。
「……はい、勿論です」
自然と俺は、そう口を開いていた。
安堵した表情を浮かべ、嬉しそうに微笑む彼女。
高校の入学式で一目惚れした先輩の笑みは、今も桜並木のように美しかった。