「手伝ってくれると言った」

「……ずるいんですね」

「一緒に観にいこうと言ったのに」

千帆の観ようとしていた映画は、土曜日に涼磨が話題に出したものだった。

「お答えしていませんでした。副社長こそ、誘っておきながら、お一人で来ているじゃないだか」

「僕は、好きな映画は何度でも観る。それから、社外では役職で呼ばないでくれ。余計な注目は、集めたくない」

「……すみません」

二枚のチケットを奪い取るようにして、涼磨が歩き出す。開場したようだ。

初めて座るプレミアムシートは、一般のシートの1.5倍以上の広さがあった。シートは、ふかふかで、体がすっぽりと包まれる。隣のシートでは、涼磨が長い脚を伸ばしているが、前の席につきそうもない。

暗い中でも光を放っていた靴先が、ひょいっと手近に来る。足を折りたたんだのだ。

それにつられるように見上げれば、隣から涼磨が千帆を覗き込んでいた。わざわざ覗き込むようにしないと隣が見えないシートの敷居を越えて、顔を出している。

「……何してるんですか?」

まだ館内は明るいものの、画面ではCMが流れているため、囁くようにして叱る。

「見えないから、いないんじゃないかと思った」

「そんなわけないじゃないですか」

リクライニングシートから、慌てて起き上がる。