「じゃあ、莉子。またあとでね」
昇降口を抜けて教室へと続く廊下。私が3組の前で足を止めると蓮は自分のクラスである1組へと歩いていった。
蓮が呼んでくれる名前は、柔らかくて、くすぐったくて、やっぱり胸がキュッとなる。
「おはよー、莉子」
私が廊下側の一番前の席に腰をおろすと、友達の柴田はるか、通称しいちゃんが話しかけてくれた。
「うん。しいちゃん、おはよう」
「今日も王子さまと登校かあ。私にもあんなイケメン幼なじみがいたら人生違ってたよ」
「はは、なにそれ」
しいちゃんとは入学式の整列の時に喋って以来、すぐに意気投合した。
すらりとスタイルが良くて、モデルみたいに綺麗なのに性格はさばさばとしている。
蓮と幼なじみということで、女子たちから妬まれることも多くて友達ができるか不安な部分もあったから、しいちゃんと仲良くなれて本当によかった。
「まあ、もうひとりの幼なじみは登校してすぐに寝てるけどね」
しいちゃんがそう言って、私の席から4列目の席を指さした。
みんな「おはよう」とか「昨日のテレビでさー」とか、元気にコミュニケーションしてるっていうのに、まるで誰も話しかけるなってオーラを放ちながら机に顔を伏せている人物。
「零は寝ることが趣味みたいなヤツだから、放っておけばいいよ」
それなのに真面目に勉強してる私よりなぜか成績はいいから、そこもむかつく。
蓮も秀才だし、たしかふたりの両親の雪子おばさんと晴彦おじさんもいい大学を卒業してるって聞いたことがあるから、頭の良さは完全にDNAが引き継がれているのかもしれない。