さっき必死に息を潜めたのは、完全な私の事情だ。

ただでさえ望みのない恋の可能性を閉ざされたくないから、私は蓮にバレたくなかった。


だって、まだなにも頑張ってない。

これから頑張ろうとしてるのに、零となにかあるんじゃないかって思われたら、私はもう生きていけない。


それなのにアイツは……。


――『片想いなんてしても無駄にこじらせるだけだろ。さっさと告白して、さっさと振られちまえ』


なんで、そんな意地悪なことばっかり言うのかな。

どうせ私が振られて落ち込んでいるところを笑いたいだけだ。マジで性格歪んでる。

それにしてもさっき……。


『莉子』

そういえば、久しぶりに名前を呼ばれた気がする。

だけどやっぱり蓮が呼んでくれる声とは違う。
零の声は鼓膜に直接響くほど低くて、声変わりも零のほうが早かった。

そんな昔から知ってる関係なのに、零はなにを考えてるか読めなくて、それは今も同じだ。


そのあとの授業は通常どおり参加して、零も教室に戻ってきたけどすぐに机に顔を伏せていた。


保健室での余韻がひどくて、しいちゃんには『莉子、なんか4歳くらい老けた?』と言われてしまった。

大人っぽく見られるのが私の目標なのに、疲れのせいで老けるのは違う。


もう、零とは関わらない!

どれだけ寝てても教室移動の時でも、私は絶対に世話は焼かないと密かに心に誓った。