「……零っ」
小声で名前を呼んで手を振りほどこうとしても、やっぱり抵抗できないくらい零の力は強い。
涙目になりながら、もうダメ……と諦めた瞬間に、ガバッと零は私に布団をかけて、それと同時にカーテンが開く音がした。
「あれ、もうひとりの早川じゃん」
拍子抜けした染谷くんの声よりも、私の心臓の音のほうがヤバい。
「なんだよ、勝手に開けてんじゃねーよ」
零は布団に寝たフリをして、その布団の中に私はいる。
頭はちょうど零のみぞおち辺りで、布団が不自然な大きさにならないように私はなるべく小さく身体をくの字にしてるけど、息苦しいし、なんでこんな状況になってしまったのか自分でも分からない。
「零、なんで保健室に?具合でも悪いの?」
と、そこへ蓮の声。
ど、どうしよう。
私が思わず零の制服をぎゅっと掴むと、なぜか零の左手が重なるように私の手を握ってきた。
一瞬動揺したけど、きっと動くなという合図だと思い、私は息を潜めているしかなかった。
「ただ眠いだけ。邪魔だからさっさと出てけよ」
「サボらずにちゃんと授業受けろよ」
「うるせーな。次は出るから早く寝かせろ」
不機嫌な零の言葉を聞いた蓮はため息まじりに「次はサボるなよ」と忠告して、ふたつの足音は保健室から消えていった。
「……ぷはっ、もう限界っ……!」
静かになったのを確認した私はすぐに布団を剥ぎ取った。
密閉された布団は酸素が薄くて、息をするのも躊躇うほどの緊張感だったから、本当に窒息するところだった。