「ごめんな。俺のせいで」
「はは、別に大したことないから。ただの突き指だし」
ドキリと、した。
柔らかく笑う声は間違いなく蓮だ。
私たちのベッドはカーテンが半分閉まっているとはいえ、覗きこまれたら一発でアウト。
なんにもやましいことはないのに、この状況を見られたら勘違いされるどころか、蓮に変な誤解をされてしまう……!
「ちょ、ちょっと退いてよ」
私は小声で零に訴えるけど、零は体勢を変えることはなく、むしろなんだか怖いくらい冷静だ。
緊張感が走る中で、蓮たちの会話が聞こえてくる。おそらく喋っているのは蓮と同じクラスの染谷(そめや)くんだ。
ひょうきんもので明るくて、友達の中でも蓮とよく一緒にいるところを目撃したことがある。
ふたりの会話からして、どうやら1組は体育の授業だったらしい。
そこで染谷くんを含む男子がバスケットボールでふざけていたところを、ある生徒がテンションに身を任せて染谷くんに思いきりボールを投げたところを蓮が庇うようにして助けたみたい。
そのまま当たっていたら、顔面直撃のコースだったらしく、染谷くんは何度も「ごめんな。ごめんな」と、蓮に謝っていた。
……蓮は本当に優しい。
授業そっちのけで遊んでた染谷くんたちが悪いのに、突き指をしたあとでも責めることは言わない。
男子でも女子でも大人でもお年寄りでも蓮の優しさは平等だから、蓮が誰かも慕われる理由がわかる。