はあ……。
何でこんな事になってしまったんだろう。

その夜、
私は零士さんの家の大きなバスタブに浸かりながら、何度もため息をついていた。


お風呂から上がり、洗面台の前で髪を乾かしていると、麻里奈さんがバスタオルを抱えてやってきた。

「あっ、麻里奈さん、すみません。お先にお風呂頂いちゃって」

「ううん、全然。私は居候の身なんだからお構いなく」

にっこりと笑う麻里奈さん。

決して悪い人じゃないんだよね。
明るくて、人懐こいし。

同居はとても憂鬱だけど、彼女が悪い訳じゃない。
嫉妬ばかりしていても始まらないし。

こうなった以上、この状況を受け入れるしかないのかもしれない。

なんて、ドライヤーをかけながら必死に気持ちを切り替えていると、麻里奈さんが洗面台の上にネックレスを置いた。

その瞬間、私の顔は凍りつく。
何故なら、そのネックレスには、零士さんが嵌めていたものとお揃いのリングがつけられていたからだ。

これが意味するのは、麻里奈さんが今でも零士さんを好きだということ。

マズい。
非常にマズい!!

全身から血の気が引いて、背中に嫌な汗が流れていくのを感じた。


………


リビングでは、零士さんがソファーを倒して、麻里奈さんのベッドを作っていた。

「零士さん」

私は零士さんの背中にしがみついた。
不安でたまらなかったから。

「ん? どうした、鈴乃」

零士さんが手を止めた。

けれど、口が裂けても言えない。
麻里奈さんが、密かにペアリングを身につけていたことなんて。

何も答えずにいると、零士さんはこちらに振り向いて私の顔を覗きこんだ。

「お兄さんのこと? もしかして不安になっちゃった?」

私は大きく首を振る。

「違います………ただ、なんとなく、零士さんがいなくなってしまうような気がして……怖くなって」

「何それ。いなくなる訳ないじゃん」

クスリと笑われた。

「とりあえず、今夜はゆっくり休みなよ。てか……もう鈴乃の消灯時間だよな? 俺、まだ仕事が残ってるから、先にベッドで寝てていいよ」

零士さんは腕時計を見ながら、私の頭に手をポンと置せた。

確かに、時刻は夜の11時を回っている。
普段の私なら、もうとっくに寝ている時間だ。

でも、麻里奈さんと零士さんを二人残したまま、先に眠れる筈もなく。

私は零士さんのベッドに潜りながら、リビングの様子をコッソリと伺っていたのだった。