キッチンからいい匂いがする。
珍しく宮本さんは、手料理を振る舞ってくれるみたいだ。

「宮本さん」

「どうした」

「…や、特に、何も」

「何だそれ。ほら、もう出来るから手洗ってきて」

「…はーい」


もう少し、料理に真剣な横顔を眺めていたかったけれど、あきらめてバスルームに向かう。


早く手を洗おう。

二人分のお茶と食器を用意して、それから席について、久しぶりに宮本さんの手料理を味わおう。

スリッパをパタパタ鳴らしながら、そんなことを考えていた。


でも、それから、それから、と私の頭は楽しいことならすぐ思い付くのに、
こんなささいなことで止まってしまうらしい。



小さな、ピアスが片方だけ、落ちている。